第9歩:天志(てんし)と公(おおやけ) ―― 宇宙の真理とリーダーが同期すべき基準
これまで「お天道様(明鬼)」という監査システムについて語ってきたが、では、そのお天道様が持っている「定規の目盛り(正しいかどうかの基準)」は、一体何で決まっているのか。墨家はそれを「天志(てんし)」と呼んだ。天の意志、つまり宇宙の普遍的なルールである。
1. 宗教の神ではない、物理法則としての天 天志とは、特定の宗教の神が気まぐれに下す命令ではない。それは「物が上から下へ落ちる」「無理な構造の建物は崩れる」といった、誰も曲げることのできない冷徹な物理法則や、システムが持続するための基本プロトコル(ソースコード)のことだ。私たちが現場で直角を引くとき、私たちは人間の勝手な都合ではなく、この「宇宙のルール(天志)」に従っているのである。
2. エラーを吐き出すシステム もし人間がエゴ(私欲)を出してこの天志に逆らい、無理な設計で建物を建てたり、嘘をついて組織を運営したりすればどうなるか。短期的には誤魔化せても、必ずどこかで「崩壊」という形でシステムがエラーを吐き出す。天志とは、従えばシステムを生かし、背けばシステムを破壊する、絶対的なマスター・データなのだ。
天志(宇宙のルール)が絶対であるならば、現場を動かし、組織を率いるリーダーは、自分の思考をどこに同期(シンクロ)させるべきか。答えは一つ、「公(おおやけ)の利益」である。
3. 私(エゴ)の排除 リーダーが「自分の手柄にしたい」「自分の派閥を有利にしたい」という私(エゴ)の定規で動き始めた瞬間、その組織のOSは狂い始める。墨家は、上に立つ者ほど自らのエゴを殺し、天志(公の利益)と自分を完全に同期させなければならないと説いた。「背私向公(私に背を向け、公に向かう)」。これが実務家における最強のマネジメント・プロトコルである。
4. リーダーは天の代行者ではない 勘違いしてはならないのは、リーダー自身が「天(絶対的な存在)」になるわけではないということだ。リーダーもまた、お天道様(明鬼)の監査を受ける一人の人間に過ぎない。だからこそ、現場の職人たちに対して「俺の言うことを聞け」ではなく、「我々は共に、天志(正しいルール)に従おう」と語りかけなければならない。公の利益という正しい指矩を共有できた時、組織は初めて一つの強靭な生き物となる。
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